Netflixのドラマ「ビリオンズ」はヘッジファンドと連邦検事との戦いの実話を元にしているドラマだ。
https://www.netflix.com/title/80067290
そしてモデルとなった投資家スティーブ・コーエンは未だに現役というのも興味深い。
(普通こういうドラマは、引退した後とかで作られるものなのに)
ビリオンズのドラマの内容自体の面白さは、ここでは割愛するとして
興味深いと思ったのが、ボビー・アクセルロッド(アックス)率いるAXEキャピタルの経営システムが、これまでの経営システムと大きく異なる点だ。
AXEキャピタルは
アックス(CEO)
ワグズ(COO)
ウェンディ(人材コーチ)
という役員構図なのだ。
例えば普通の企業、大企業であれば
CEO、CFO、COO、CTO
代表取締役、取締役、執行役
などといった肩書きが並ぶ
あるいはベンチャーで3人役員であれば
CEO、CTO、COOのパターンが多い。
AXEキャピタルはIT企業ではなく、ヘッジファンドなので、CTOは要らないかもしれないが、それにしても今までにない構図である。
CEOであるアックスとCOOのワグズの業務は従来のものとさほど変わらない。
アックスはリーダーであり、最高意思決定責任者であり、彼がヘッジファンド一の稼ぎ頭で、彼に並ぶものはいない。
COOのワグズはそんなアックスの無茶ぶりを淡々とこなす。なんでもやるところが実にCOOっぽい。
そして優秀だがムラのあるトレーダーたちをコントロールするのが、ウェンディの役割である。パフォーマンスが落ちたトレーダーを回復させ、やる気のない人間に火をつけ、組織の中のいざこざをコーチングで導き、巧みに取り除いて行く。アックスやワグズでさえ、彼女の意見を仰ぐ。ある意味、陰のCEOであり、経営者でもある。しかし、ウェンディの経営スタイルは、従来型の経営者ではない。
従来型の経営者のやることはCOOのワグズに近い。プロジェクトマネージメントであり、CEOと社員との間に立つような位置付けである。
それに対して、ウェンディはどこまでもHR領域で、人間のインサイトによって、人間のパフォーマンスを高めることに特化している。
しかし、本来であれば経営は人を扱うことであり、ウェンディを経営のプロというのは、本来の意味に近いようにも見える。
これは起業、経営の黄金比率ともいうべき
イノベーター(アックス)
パートナー(ワグズ)
メンター(ウェンディ)
という構図も持っている。
しかし、これまではメンターというものは概して、社外に存在するものだ。
例えば、社長のメンターが社内にいる企業。あるいは、人材コーチが社内にいる企業を見たことあるだろうか?
従来型の企業はこれらの機能は、社外とされてきた。
この点においても、全然違うのだ。
もちろん、ヘッジファンドという一人一人が独立性を持ち、彼らのパフォーマンスをあげることが重要である業態であるから、この形態が成り立つ可能性もある。
しかし、一人一人の性格や才能を的確に捉え、組織を一つの目標に向かって整えるのは、本来は必要な機能ではないだろうか。
これまでの経営組織は言ってしまえば、プロジェクトに重きが置かれすぎていて、人間の才能やポテンシャル、組織の摩擦を取り除くことには鈍感になり過ぎてはいないだろうか?
人間の能力を最大限に発揮して、経営目標を達成するような組織であれば
むしろウェンディのようなHRのプロフェッショナルが経営陣に必要なのではないだろうか。
この点、日本におけるHRといえば人事採用、それも履歴書と職務経歴書のレビューとインタビュー機能に過ぎない。心理学のPhDやコーチングの能力を問われることはない。
つまり、人事の経験があることがいまの日本における、プロフェッショナルの意味であり、それは「人間のプロフェッショナル」ではない。
心理学やコーチングの知識がどこまで有用か、というところには議論の余地があるが、少なくともアメリカはその分野で進んでいるのはドラマの中からでも垣間見える。
整理するとAXEキャピタルは以下が全く新しい
・人間のプロフェッショナルをHRのトップに置く
・メンターやコーチといった機能を社外ではなく社内に置く
これは経営システムのイノベーションではないだろうか。