IT人の政治リテラシー向上を目指して

元政治家秘書、現IT起業家が主にIT起業家、エンジニア、デザイナーなどIT業界人の政治リテラシー向上を目指して、日々のニュースや政治トピックについて言及。たまに起業ネタや映画、アニメネタなども。ちょっぴり認識力が上がるブログ。

トランプとTPP

トランプ次期大統領が早々に表明したTPP脱退についてですが、そもそもTPPとは何か?というのを元外交官佐藤優氏の解説を紹介したいと思います。

 

「基本的に自由貿易をやるなら、FTAないしはより広範囲なEPAをやればいい。それをわざわざTPPというものを持ち出すのは、ブロック経済圏の考え方にあり、その本当の意図は中国を封じ込めることにあります。」

 

確かにその意味においては、中国は反TPPであるトランプを支持する理由はありますが、ロシアと共にトランプ支持にまわったのはトランプの唱える「孤立主義」にあります。

 

ここで何故トランプか?という疑問も交えながら解説しますが

 

元々、アメリカには「モンロー主義」という考え方があり、ヨーロッパはヨーロッパ、アメリカはアメリカで。アメリカに害を及ばさない限り、他の国は勝手にやってください、という考え方が伝統的にあります。

 

これは勿論、イギリスから独立した経緯もありますが、アメリカは元々エネルギー資源も豊富で国土も非常に広大で、人口もあります。日本のような外貨を獲得し、石油資源を買わないといけない国とは異なり、自国だけで現代風な言い方をすれば引きこもっても充分、自給自足でいい暮らしができる国なのです。

 

それが世界平和だと言い、中東に兵士を送り膨大な出費と人名が損なわれ、自由貿易だと言い、国内の市場は安い海外製品に占められ、雇用も海外に流出している、これはおかしいではないか。著しくアメリカ人の考える「モンロー主義」に反しています。

 

そのように考えるアメリカ人がトランプ支持にまわっている支持者たちです。今回トランプ支持にまわったアメリカ南部、中西部の共和党支持州は元来こういう考え方をします。日本で言えば、東京と沖縄、京都と北海道などが県民性や考え方が異なるのと同じです。

 

日本人の多くが想像する「アメリカ人」というのは、主にニューヨークやカリフォルニアに住む、移民を含むアメリカに住む「グローバルエリート」が多いのはないかと思います。彼らはインターネットを駆使し、メディアにも露出し、日本人との接点も多いです。そして、軒並み彼らは今回の選挙で言えばクリントン支持です。

 

従って、普通に日本に来るようなアメリカ人やアメリカで観光や仕事で出会うようなアメリカ人と接していると、おそらくトランプ支持者というのは殆ど会うことはないと思うので、それ以外のアメリカ人の考えていることはわからず、トランプを選ぶなんて狂気の沙汰だ、という風に考えがちなのです。

 

さて話しをTPPに戻しますが、トランプがTPPを止めると言ったことはこれからどういう影響があるでしょうか。まず本当に中国にとってプラスになるのかから日本への影響も考えてみたいと思います。

 

まず、トランプはこれから自国産業と雇用を守る、いわゆる保護貿易政策に出る可能性があります。既にそれに関連し、アメリカ企業の株価は上昇していますが、そうすると国内から安い製品を閉め出す、特に中国製品に対して高い関税をかけてくる可能性があります。

 

中国経済というのはかつての日本がそうだったように、アメリカの市場に相当依存しています。従って、中国商品がアメリカ市場から閉め出しをくらえば、来年2017年は、かなりの程度で中国経済が不況に陥ることになります。

 

これを乗り切るために、中国は市場の拡大を東南アジアに求めることになります。主に標的となるのは人口も多く、それなりに経済も成長しているタイ、ベトナムインドネシア、そしてこれから伸びるであろうと言われるミャンマーなどです。これらの地域で日本と中国は利権が対立することになります。

 

こうしたアジア圏における中国の勢力拡大は、トランプの孤立主義と合致していますが、そのトリガーとなるのがトランプの保護貿易主義です。つまり、中国にとってトランプが望ましい、というメディアの言葉はやや複雑な意味をはらんでおり

 

中国政府にとってクリントンよりもトランプの方が、中国の拡大主義にとっては都合がよく、習近平政権にとっては交渉し易い相手ではあっても、中国経済を冷え込ませ、中国の内政問題がより現出化し易いのはトランプであるため(ただ結果的にTPPが締結されれば似たようなことにはなる)比較した場合、トランプの方がマシというような支持で、ロシアのような積極的なクリントン拒否とは温度差がやや異なるのではないかと推測されます。その意味では中国とロシアはワンセットでトランプ支持という報道も、少しうがった見方も必要かもしれません。

 

そしてこうした中国の動きは当然、近隣諸国の警戒を産み、特に日本とロシアはプーチンが大統領にいる間はかなり接近すると考えられます。12月に北方四島交渉(おそらく二島返還)がなされれば、日本とロシアの距離はかつてなく縮まるでしょう。

 

一方で、中国が現在の国内における貧富の差や、内陸部の特にウイグル自治区の対応を誤るようなことになれば、大きな混乱を招き、それは世界情勢に大きな影響を与え、東南アジアにおけるパワーバランスが大きく変わる可能性があります。それは日本にとってはチャンスでもあり脅威でもありえます。

 

つまり、図らずとも、アメリカの孤立主義は中国の存在感というものを高め、来年以降、中国から全世界が、目が離せないことになると思います。

 

他の地域においてもトランプの孤立主義は影響を及ぼすことになるでしょう。

 

ただし、トランプが大統領になったからと言って、アメリカが中東から手を引く、あるいは世界の基地から撤退するというのは非常に考え難いです。それらは致命的なアメリカの権益に関わる問題だからです。(ただし致命的とは成り得ないイラクアフガニスタン地域からの撤退は条件次第で充分考えられます)中東に関してはイランが核武装化するという話しもあり、また別途考察したいと思います。