この本を読んで改めて気づいたのは、アメリカで起きている現象は富裕層VS貧困層であり、それはエスタブリッシュメント層(上流階級)とポピュリストが対象とする層(大衆、以下ポピュリスト層)の対立に置き換えることができ、その基軸は日本で小池百合子が勝利し、敗北した現象を読み解くのにも寄与しないだろうか。
まずトランプは、実際はクリントンよりも資産家という面ではエスタブリッシュメント層に近い。そこを、巧みにアメリカの現在の対立構造を読み解き、自分をイメージコントロールし、ポピュリスト層を取り込み選挙に勝利した。
一方、小池百合子自身はエスタブリッシュメント層という面を全面に出しかつ、失態の多い安倍政権に失望するポピュリスト層を政策で取り込み、両方の層から支持を得て、都知事選には勝利した。
しかし、民進党合流の際に踏み絵をしたせいで、ポピュリスト層からは支持を失い、また都知事なのに国政という欲を出したため、エスタブリッシュメント層からも見放され、選挙に敗れたというのが今回の小池百合子敗北の見立てである。
ここでエスタブリッシュメント層とポピュリスト層のそれぞれのペルソナを考えてみる。
エスタブリッシュメント層とは、いわばアメリカであればアイビーリーグ卒、日本でもそれなりに良い大学を出て、教養があり、洗練されたものを好み、週末にはどちらかと言えば品の良いレストランでワインを飲むことを好むような層である。更に言えばゴルフやテニスに勤しみ日本なら日経新聞を読むような層で、アメリカでは主に北部とカリフォルニア州に多い。
(真のエスタブリッシュメント層はまた違う定義になるが)
かたやポピュリスト層は、学歴はそれほどでもなく、荒っぽく、洒落たレストランなどよりもパブや居酒屋に行き、スポーツ観戦を好む層で、アメリカで言えば南部に多く、日本で言えばテレビを観て大衆紙を購読するような層である。
エスタブリッシュメント層からすれば、ポピュリスト層は堕落し、教養もないのに自分の権利を主張するから許し難い存在であり、
ポピュリスト層からしたら、エスタブリッシュメント層は差別主義でお高くとまって、忌々しい存在で、お互いの対立というものは、根が深いものがある。
花形の職業も異なる。エスタブリッシュメント層であれば、一流企業、官僚、弁護士、医師、会計士などであり、アメリカであればクリントンを支持していた層でもある。
彼らからしたら、トランプのような下品な人間を大統領にするなど正気の沙汰ではないという感覚だろう。
方やポピュリスト層の花形の職業は軍人、警察官、自衛隊などであり、基本的にグローバル化の恩恵を受けることがない層である。アメリカで言えば彼らが見ている世界、望んでいる世界は、世界最強のアメリカだけであり、外の国は興味を持たず、もっと言えば観光で行くこともない。
それがトランプを支持した層で、日本人がメディアや日本で出会うことない、ある意味典型的な本来のカウボーイ、アメリカ人である。
だから、日本人はトランプが勝つという現象を理解できる人が少ない。何故ならトランプを支持する人たちと接触したことがまずないからである。
日本人がよくアメリカ人、として議論しているのはニューヨークかDC、カリフォルニアにいるエスタブリッシュメント層を指すことが多い。
無論、トランプはアメリカの産業界の代表であり、娘夫婦はど真ん中のエスタブリッシュメント層であり、富裕層の支持を得ていない訳ではない。ポピュリスト層をとるために、色々な失言や失態も合わせて抜群に見せ方がうまかったともいえる。
今回のテーマから外れるが、オバマもまさにエスタブリッシュメント層の代表であり、今回の選挙結果はオバマによる改革への失望、エスタブリッシュメント層、エリート層への失望からのトランプという流れも見える。
代々アメリカでは、民主党が北部エスタブリッシュ層、共和党が南部ポピュリスト層のカルチャー寄りの大統領を排出している。これはおそらく南北戦争からの傾向だろうか。アメリカは未だに南北戦争の文脈は根付いていると思われることがメディアを見ていても随所に感じられる。その構造も日本人には馴染みがないところであろう。
一方で日本はそこまで国内に明確かつ、深刻な階級対立は表層化していない。ただ、地域格差という意味ではそれが特に沖縄では顕著に起きており、だから沖縄は最も地域政党という議論が根強く、与党は選挙に勝てない。
とは言え、資本主義である以上、今後も富裕層、大衆、両方を取り込むことが選挙で勝つ秘訣である。日本の場合、特に自民党は出自がエスタブリッシュメント層が多いのもあり、必ず政策でポピュリスト層寄りにせざるを得ないだろう。逆に野党は差別化のため、庶民的なイメージを出してくる、と言えば既に各政党が行なっている選挙のイメージに合致するはずだと気づくはずだ。なぜなら自民党がポピュリスト寄りの政策を打ち出してしまっている以上、野党は政策で勝負も差別化もできないからである。
なので、小池百合子が今回の選挙で掲げたように、しがらみのない保守というよく分からない言葉が出てきてしまうのだ。そもそもしがらみ、特定の権力と結びつかない政治家など存在し得ないのに。
小池百合子個人がエスタブリッシュメント感を出し、政策もポピュリスト層寄りでは自民党と違うところなど、何も存在し得ないからそう言わざるを得ないのだろう。しかし、そのような発言は、勘のいい有権者からは自民党の劣化版だと思われて票を失うのが関の山である。欺瞞も透けて見えてしまうからだ。
あくまで新党に期待されるのは、“質の高い自民党”としての役割である。その期待値を裏切ってしまうと選挙には勝てない。今回の場合、その期待値を裏切ったターニングポイントが、踏み絵と都知事選直後に国政に出てしまう判断、そして周辺人材の質の低さの三つであったと言えよう。
したがって、今の有権者の温度感からすると、自民党の中から最も優秀な議員をエッセンスとして抽出し、それが野党の中でもスター級の議員や民間のセレブリティと合流するような構図が、次の選挙で自民以外が勝つパターンとしては考えやすい。
例えば小泉進次郎と石破茂、河野太郎が若手を引き連れ離党し、小泉は年長者を立てて今回は総裁にはならない、という構図は面白い。そこに民間から池上彰などが合流するイメージである。
今回の国政選挙も小池百合子も最初は、そのパターンとして入ったが、結果的に自民党を上回る人材を揃える、という求心力が足りなかったという一面もある。だが、先ほどのメンバーに都知事として小池百合子が応援する、というパターンは今後もまだ充分活きると思われる。
あまりにも堕落した自民党を、志のある若い自民党議員が離反して新党を立ち上げ、そこに支援者が現れる、というストーリーが最も有権者からしたら望ましく、安心感がある。その意味でも石破茂、小泉進次郎のような議員の今後の動静は注目すべきであろう。
むしろアメリカの今後の方が深刻で、トランプの後にオバマのようなエスタブリッシュメントの権化のようなタイプに戻るとも思えないし、一体いつまで二大政党制を続けるのだろうと、アメリカの近未来を自分は悲観的に見ている。
トランプが過激過ぎたから、一見大人しそうな民主党の大統領か、共和党の中でも穏健なタイプが次の大統領にでもなりそうだが、そういうときのアメリカの方がカーターやクリントンのように怖い動きをするかもしれない。
最後に本の中で両氏が述べているように、中間選挙にトランプが勝つために何らかの行動に出るのは、自分もagree である。それは違う角度から以前ブログには書いたが、思えば中間選挙というファクターを自分が見落としていただけだったと思われる。http://itseiji.hatenablog.com/entry/2017/04/05/182508