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元政治家秘書、現IT起業家が主にIT起業家、エンジニア、デザイナーなどIT業界人の政治リテラシー向上を目指して、日々のニュースや政治トピックについて言及。たまに起業ネタや映画、アニメネタなども。ちょっぴり認識力が上がるブログ。

人工知能的サイコパス解説(シーズン2)

※以下サイコパスの重大なネタバレを含みます※

 

 

 

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シーズン2の解説

 

シーズン2の主題は「シビュラシステムの欠点は何か?」である。

 

シーズン1でシビュラシステムの仕組みが明らかになったことで、シーズン2はそのシステムの正当性を問うような犯罪者が登場する。

 

それが鹿矛囲桐斗である。彼は1人の人間ではなく、何10人という死体からつぎはぎされたゾンビのようなものであり、集団のサイコパス(犯罪係数)を測定する機能がないシビュラには認識できない(シーズン1の槙島とは異なる理由で)のである。

 

もう1つ、シビュラが抱える問題は自己を測定できるのか、ということである。つまり、他人が犯罪者かは測定できても、自分が犯罪者かはわからない。自分が犯罪者で、自身の目的のために他人を葬ることがあれば、それは私利私欲にまみれた人間の権力者と変わらない、それを鹿矛囲に問われる、それがシーズン2のテーマである。

 

結果的にシビュラシステムは集団を測定する能力と自己を測定する能力を獲得する。それは、人間個人としては善人であっても、集団としては例えばデモのような行為であれば悪とみなし、大量虐殺をしてしまう可能性を残しつつ、自浄作用(幾つかの脳を消す)によって、システムとしてはしぶとく生き残る選択を示した。だが、それによってよりシビュラは近代的なシステムにも関わらず、人間に近づいたものになる結果を得る。

 

そして、自己を認識するためには、鹿矛囲(あるいは主人公の常守)という他者を、システムはあるいは人は必要とする。そしてその観測者は自己よく知るがかけ離れたもの(あるいは敵と呼ばれる存在)である、ということを、物語を通じて示唆している。

 

個人と集団あるいは人工知能と人間の垣根、自己認識、ここまでが作者の明示したテーマであろうが、実は、作者は無意識の内に更に大きなテーマを投げかけているではないか思う。

 

すなわち、個人とはいったい何か?ということである。シビュラシステムは個人のサイコパスは測定できるが集団はできない、という設定になっているが、私は個人も既に集団の性質を持っていると知っている。

 

何故なら、我々のDNAには祖先の情報が刻み込まれている。100年間に3世代の先祖がいると仮定しても2000年でも現代人は260という膨大な数の祖先のDNAデータを個人は内包していることになる。(この話しを無視しているため、このテーマは作者には盛り込まれていないと判断している)

この時、実際はそのDNAがどのような動きをしているか、実のところはよくわかっていない。例えば父親がとても計算能力が高く、子供も生まれもって計算能力が高ければその子は遺伝子的に計算能力が得意なDNAを持っていると判定するのか、あるいは両親とは全く異なる才能が発芽した場合、その才能は何世代前の先祖の質が発現したのか、あるいは環境によることが原因なのかよくわかっていない。(要するに今の行為や言動が自身のものなのか、誰か祖先のものなのか)

 

つまり、我々が個人、自分だと思っているものには、何か?何の根拠もないのである。これはずっと人類が歴史的に哲学のテーマとして論じられていることで、個人とは、自我とは何か、デカルトの言うように「我思う、ゆえに我あり」でいいのか、ということである。

 

自我(意識)がどうやって生まれるのか、それが分からなければ、人工知能を作れたとしても、それは科学的にはよくわからないが、できてしまった、という極めて危ういものになるだろう。

 

1つの答えとして、「意識とは無限情報を統合できるシステム」、という結論を昨年出したイタリアの科学者がいる。彼の説は広く支持されているが、実はアニメ攻殻機動隊タチコマが情報を並列化した結果、自我を持つというエピソードがあり、日本のアニメの方が人工知能に関して早く同じ結論に辿り着いていたという点が興味深い。

 

だが、実際はどちらも統合をする「基準」は何かという点を見落としているため、人工知能という点に関しては不完全だと思われる。例えば、人間は食欲があるから、食事という点にフォーカスして情報を統合するが、その食欲は脳からだけはなく、胃腸からも発生する。そうすると、脳が単独で意識を持ち得るか、という仮定に反証可能性を存在させてしまう。従って、少なくともタチコマが自我を獲得した理由は並列化だけではない、ということになる。

 

この辺りもまた、真に人工知能を作ろうとするとホムンクルス的になってしまうことや、ジェフ・ホーキンスがneocortex(大脳新皮質)の機能再現だけで、人工知能は充分だ、と言う理由の1つであろう。それ位、科学的なアプローチ下では、タチコマのような人工知能を作ることは極めて困難である、ということである。逆に言えば、無限の情報を統合するだけでいいなら、既にGoogleのような企業は意識を持った人工知能を持っている、ということである。