Facebookの発行する仮想通貨、Libra(リブラ)がもたらすインパクトは革命的なものになる、おそらくこれまでの世界観が一変するだろう。
なぜ衝撃的かといえば、リブラが信用力の高い通貨であり、様々なところで使える可能性があるからだ。
ビットコインの課題は基本的に裏付けとなるものがなく、信用力に欠け、使えるところが非常に限定されていた。
リブラはそういう意味では「本物の仮想通貨」がやってきた感がある。
まず、リブラは発行すると同時にドルを買うため、ドルベースの新しい通貨となる。
これがまず衝撃なのは、Facebookは時価総額は軽く10兆を超える企業であり、世界の半分以上の国家のGDPよりも高く、GAFA全てに言えることだが、国レベルの経済規模を有しているということだ。
そのような企業がドルという基軸通貨ベースで通貨を発行するということは、大半の途上国にとっては自国の通貨を失うに等しいのである。
自国の発行するする通貨よりも、リブラの方が安全で便利で信用があるからである。人々は自国の通貨でなく、リブラでの決済を求めることになる。
また、Facebookが発行すれば、当然、Google、Amazon(GAFAの中ではAppleはあまり利点がない)、そして中国の百度、アリババ、テンセント辺りも間違いなくやるだろう。
これらが発行する通貨の総額はかなりのものとなり、全世界通貨安という事態さえ起こり得るだろう。
Facebookはドルベース、他の通貨はもしかしたらビットコインベース、元ベースと裏付けとなる通貨は異なるかもしれない(金を持ち出すところもあるかもしれない)
いずれにしても、そのようなことをされた場合、日本の円は完全に追い出しを食らうことになり、全ての仮想通貨がドルベースで発行されることになれば、ドル以外全ての通貨が切り下がることになる。
このシナリオになると、日本経済、および世界経済に与えるインパクトは計り知れないものになる。
一方でリブラに付属するブロックチェーンの話になると、これはまだ課題が山積みであろう。
これまでビットコインにブロックチェーンがかろうじて使われていたのは、ビットコイン自体のユーザー数と決済数が少なかったからである。
ブロックチェーンの厄介なところは、取引されるたびにブロックが追加されて行くため、取引回数が増えれば増えるほど、通貨のサイズが重くなることだ。
ビットコインのようにほとんどが投機目的、あるいはイーサのような取引先が限定されるような仮想通貨ならともかく、例えばLINEスタンプのような100円単位の決済が大量に発生するような通貨には全く向いていないのだ。
もちろんそれを軽量化する技術などもあるが、結局セキリュティなどとトレードオフの関係になり、デジタルな絶対安全な通貨であろうとすることが、リブラ流通の妨げになるというジレンマが存在する。(無論以前指摘したように量子コンピューターができれば、ほとんどの仮想通貨は無謀になるが)
この流通・決済の視点からするとまだ既存の通貨に軍配が上がるように見える。
だがこの問題解決も手段は極めて単純である。
それはGAFAが仮想通貨ではなく、実物の通貨を何らかの形で発行し、その取引所を設ければいいのだ(もちろん多くの国において法律に抵触することにはなりそうだが)
この問題において、まず気づかなければいけないのは、日銀が円を発行しようが、FRBがドルを発行しようが、Facebookがリブラを発行しようが、もはや同じ「通貨」であるということだ。
以前指摘したように、「貨幣」そのものの価値は額面のものではなく、その価値は「主観」で決まる。つまり、多くの人が「信用がある」と思い、それに「多くの場所で使われて」いれば貨幣は価値を持つことになる。
その意味において、リブラは信用力、使用できる場所の多さ、いずれをとっても国家が発行する通貨と何ら変わらない。
元々サトシ・ナカモトは国家とそれに付随する金融システムから人々を解放するために、ブロックチェーンシステムを考案した。
その主要な目的は国家の持つ通貨発行の独占は幻想であり、通貨を人々の手に戻すことであった。
Facebookという一企業がそれをすることは、氏が目指していた世界観とは異なるかもしれないが、国家が持つ残り数少ない独占権、すなわち通貨の発行権が脅かされているのは事実だろう。
金融システムに与えるインパクト、国家システムに与えるインパクト
このいずれをとってもリブラ後の世界は、いまとは全く異なる世界になっていると言わざるを得ないだろう。