IT人の政治リテラシー向上を目指して

元政治家秘書、現IT起業家が主にIT起業家、エンジニア、デザイナーなどIT業界人の政治リテラシー向上を目指して、日々のニュースや政治トピックについて言及。たまに起業ネタや映画、アニメネタなども。ちょっぴり認識力が上がるブログ。

統計から経済を読む事の困難さ

ネイト・シルバーのシグナル&ノイズから着想

 

まず、ネイト・シルバーは前回のアメリカの大統領選挙を、殆どの選挙区で当落を的中させた人物であり、小説「マネー・ボール」に出てくる、大リーグのスカウトに統計学のアプローチを持ち込んだ開発者であり、いわばある業界では知る人ぞ知る人物である。

 

シルバーの統計分析に関するアプローチは、ビッグ・データとはただのデータでしかなく、どうやってその中の“ノイズ”から“シグナル”を見抜くか、それは扱う人間のセンスによって決まる、というものだ。

 

(ちなみに彼が使用する統計手法はベイズ統計であり、ベイズ統計は事前確率が事後確率に影響を与える、というシンプルなモデルで、それだけに確かに扱うデータを選ぶセンスがどうやら問われそうなものだ。)

 

さて、本の中でシルバーは専門家の経済予測、例えばGDP成長率などの経済指標は、天気予報よりも精度が低く予測が困難であることを述べている。(ちなみに我々日本人が最も関心があるであろう地震の予測はもっと困難である。)

 

それは何故か少し考えてみたい。

 

まず、土台としてGDPは需要ベース、Y=C+I+G+XーMで表す。

要するに、国内総生産は消費+投資+政府支出に輸出を加え輸入を引いたものだ。

 

さてここで我々が専門家であったとして数年先までのGDP成長率を予測してみよう。

分かり易いようにC、すなわち一番分かり易い消費のみに注目するとする。

つまり、消費が拡大すれば、GDPも増え、GDP成長率も増えるとする。(この場合他の数値は一定と仮定する。)

 

なので我々は消費の増加量を予想できれば、GDP成長率を予想できることになる。では、消費の増加量はどうやって予想するのか?

 

例えば全国的な過去の住宅や車などの過去の販売実績から、ある程度の物の消費予測は立てることができる。しかし、例えば今回のように消費税が8%になった場合、それは消費にどう影響するのか?

歴史的に事例のない事態に対しては、どう消費が動くかというのは類似の事例を使うかするしかない。そして、残念ながらグローバル経済となった今日では、消費に影響する要素というのは、一国の税制だけではない。為替レートや石油価格を始め多くの外的な変動を受ける。

 

つまり、数学的な予測モデルを立てるとなると、まず消費物を各項目毎に洗い出し、更にその項目に影響を与える事象の類似的な事例を見つけ出し、更に項目に影響を与える要因を全て洗い出し、更にその要因の未来の動きの予測を盛り込まなければならないし、更にその変数同士は相互に影響し合うのだ。

そして今回は消費だけ抜き出したが、後4項目実際は増えるのだ。

 

文章にしただけで嫌になるし、これを数式にしたら一体幾つの変数が必要になるのだろうか?そしてお気づきだと思うが、要するに予測は不可能なのだ。

 

従って、シルバーが言う様に、エコノミストの行う予想など殆ど詐欺的なものだというのは否定できない。

 

一見シンプルに見えるGDPの式も実際は、非常に複雑なものであることがわかる。ここもやや詐欺的である。

 

また仮にこれを生産、国内総供給の方からアプローチしてもさして話しは変わらない。だが、生産を増やしても需要がなく、在庫が増えている場合に、生産を伸ばすことだけで増大させたGDP成長率という指標にどれだけ意義があるか、という疑問が付加されることになるが。

 

また統計が詐欺的なのは、他にもある。例えば昨今中国がアメリカのGDPを抜いたことが話題になっている。確かに、基本的にGDPが国際社会における影響力と明確に関連がある以上注目する事態ではある。

 

しかし、見落としてはならないのは、アメリカは中国の半分以下の人口でその数値をたたき出している。つまり、半分の人口で倍の生産力がある事を意味している。それはアメリカが未だに凄まじい強さを持っている、とも言えないだろうか。つまり、このデータは中国が強いと同時にアメリカも強い、という事を実際は意味している。(だがマスコミは中国がアメリカに迫っている危機だけをどうしてもニュース性から報じるし、この手のニュースは国民からすれば、芸能人のゴシップレベルの事実だけを読んで印象を持つ記事だろう。)

 

要するにデータとは常に相対的なもので、視点を変え、目的を変えれば変化し、要素を操れる非常に有機的で主観的なものであるのだ。実際は人々は詐欺師を専門家、データを無機的で絶対的なもの、と思い込み易いのだが、それはリテラシーの問題だろう。

 

そして、一方で先ほどのGDP成長率の予測数値が全くの不要のものかと言われればそうでもない。確かに正確な数値は出ることはないし、政府がこの指標を使用する意図が仮に消費税増税の根拠という目的は不純ではあっても、正確な数値は分からなくても、+か−か位は予想がつく。そして、−の場合、政策的にどのような手を打つか、という議論をすることができる。先ほど述べた統計データの相対性の概念である。

 

ここからは少し余談も入るが、これらの経済学的な予測は流体力学に用いられるナヴィエ=ストーク式に近いものを感じる。それは、ある一定の場所の空気や水の流れは多くの要素が複雑に絡み合い、ある一点におけるそれらの数値の予測を行うのが非常に困難で、方程式自体は解かれておらず、近似式を用いてしか実用にはまだ至っていない、という点が正に先ほど述べたような経済予測にそっくりだからだ。

 

思えば、LTCMは破綻したとは言え、未だにヨーロピアンオプションの価格を導出するためのブラック・ショールズモデルは有効であると言われる。そしてこの数式は物理学の波動方程式を元に作られている。非常に理科的な分野のものである。

 

実際、経済学とは高度に理系の分野にも関わらず、何故か文系に位置づけられるのが問題だとも言われる。基本的に高いレベルの数学・物理学のリテラシーを必要とすると言われるにも関わらず。(そして統計学も)

 

そこが基本的には文系大卒が占めるエコノミストたちを詐欺師化させている一つの要因ではないだろうか。すなわち、言っている本人も自分の言っていることをよく理解していないのである。(もちろん私は素晴らしく頭の切れる経済学者やエコノミストを何人も知っているから、全員ではないのもよく理解しているが)

 

実は同様の危惧は、先ほど少し触れた地震の予測についても当てはまる。もちろん、地震の予測は理科的な分類に入るだろうが、果たして本当にそれを研究している人々は基礎的なリテラシーが足りているのだろうか。

 

私は専門ではないから直感的な意見でしかないが、仮に地震の予測を立てる場合、先ほどの流体力学的な発想であろうから、数学と物理学、そしてベイズ統計とデータを読み解くセンス、そこに地震特有の地質学や地学、仮に宇宙からの影響もあるのだとしたら、物理学でも重力に関わる相対性理論や、月や太陽の事も知らなければならないはずだ。

 

だが、現状は基礎的な数学と物理学に地質学、地学で終わってしまっているのではないだろうか。そして仮に統計学をやっていたとしても、シルバーが言う様に、統計学は非常にセンスを問われる学問だが、私の知る限り統計のセンスを教えてくれる教師が地震の専門家の卵にレクチャーしているのを見た事はない。

 

地震の予測、というのは我々日本人にとって死活問題であり、国家的なプロジェクトであるべきだ。学問の世界とはとかく、学閥や頑固な領域の分担、俗世的な人間関係に成りがちだが、こだわりを捨て、日本の研究者は一丸となって取り組むべきではないだろうか。

 

そして、これは専門家ではない私の私見だから、大いに間違っているかもしれないが、地震の予測とは本質的に数学者の仕事に思える。そのため、気象学者や地質学者に幾ら予算を割いても、運任せのような気がする。

 

従って、政府は地震の予測モデルを国家プロジェクトにするなら、数学者を要請する、あるいは数学の研究資金を飛躍的に高めなくてはならない、と私は思う。

 

要するに、最後は無理矢理本ブログのテーマに持っていくが、プロジェクトを採択する政治家、特に総理、官邸にも、同様の基礎的なリテラシーが求められている、ということなのである。専門家の言うことはわからない、任せるなどの丸投げでは、一体何が問題解決の手段なのか、一向に見えてこないというものである。

 

と、今回はちょっとだけ数式使ったり理科系の専門用語を並べてみたり、ちょっと専門家っぽい書き方をしてみた。本質は知識を発散したいだけの、これがいわゆるちょっと詐欺に近い文章である