IT人の政治リテラシー向上を目指して

元政治家秘書、現IT起業家が主にIT起業家、エンジニア、デザイナーなどIT業界人の政治リテラシー向上を目指して、日々のニュースや政治トピックについて言及。たまに起業ネタや映画、アニメネタなども。ちょっぴり認識力が上がるブログ。

MMT(modern monetary theory;現代貨幣理論)を吟味する

○はじめにMMTの特徴的な考え方(意訳・抜粋)

・円やドルのような強力な通貨を持つ政府は、借金してもデフォルトしない

・従って財政赤字を気にせず、プライマリーバランスを均衡させる必要もない

・従ってどんどんお金を刷って景気をよくすれば良い

 

MMTが懸念されているポイント

・通貨を大量に刷ることによるインフレおよびハイパーインフレの危険性

 

MMTが日本で注目されるポイント

・日本の経済政策はプライマリーバランス重視派で、それが論拠で消費増税をしているが、それは間違いではないか

・借金を気にせず、もっとお金を刷れば、デフレ脱却し景気が回復するのではないか

 

○気になるポイント

・お金を大量に刷ることは為替レートに影響を与えることは考慮されていない

→為替レートに影響が出ないあるいは、国際政治を無視すれば、極論を言えばお金を刷りまくって、他国の土地を幾らでも買うようなことができてしまう。

実際、ある一国がそのようなことをすれば、為替ダンピングだと非難されるのではないか。

 

・そもそも論としてお金を刷って財政支出をしても支出先がない

ケインズが、財政支出が雇用を生み出すと言っていた時代は、高速道路がないような時代。いまの時代に政府が財政支出をしても、例えば日本の場合、リニア線路をあと数本敷いて誰も使わない、一時的な景気効果しか望めないのでは。つまり、財政支出そのものを議論しても意味がなく、どう支出するかが重要なのではないか。

 

大きな政府とバラ撒きを前提

→基本的にMMTは金融政策と財政政策を両方完全にコントロールして、実施することを前提としている。

また、基本的にMMTの考え方自体が、国(大きな政府)が政策により経済をよくし、雇用を改善するという立場に立っているが、その結果が日本の場合、大量の無駄な公共事業やバブルだった歴史を忘れていないか。

雇用も経済も需要があるからまわるのであって、お金をバラ撒けば全て解決する(供給すれば良い)、というわけではないのでは。

 

・安直なバラ撒き論

→必要なのは

「働きたい人が、働けるインフラを整えること」

「働けない人、働かない人のコストを社会がどのような理由で負担するのか」

「どのような論拠でベーシックインカムのようなシステムを機能させるのか」

「需要が弱まっている中、どのようなシステムで経済をまわすのか」

「どのように社会保障費、支出を減らすのか」

 

議論するポイントはこの辺の方が適当で

 

「バラまいて景気をよくしよう」

「社会的弱者には政府がバラ撒こう」

 

という安直かつ、国民に耳障りが良いようなことを言っている様にも見えるし、その様な安直な主張をする政治家の根拠に使われている感がある。

 

・直感的な違和感、コントロール可能という幻想

→企業と政府のバランスシートは確かに違うが

だから企業と違って「借金しても大丈夫」というところには違和感がある。

基本的に無限にお金を刷るわけではないということを前提にしているが、では一体どの程度なら「大丈夫」であり、どうすればインフレも含めてコントロール可能なのかが不明瞭。

基本的にインフレ・ターゲット論自体、ずっと日銀が言っているが、全く達成もコントロールも現状としてできていないため、インフレ率を維持できる、というところに論拠が見えない。

 

MMTが正しく見えてしまう理由

・確かに日本やアメリカのような国は、借金をしてもデフォルトはしないこと

・政府会計と企業会計は違うという主張

・現代貨幣の本質は金兌換ではもはやない、という貨幣感

・デフレよりは緩やかなインフレの方が経済には良いのではという視点

・現状の消費増税の意味が不明瞭(プライマリーバランス均衡や、将来の世代への負担減を理由としているが、そもそも税収減の可能性もある)

・既存の経済政策の不明瞭さに対する不安に対するアンチテーゼに見える

 

つまり、MMTの根幹である「いくら借金をしても大丈夫」というところは不透明だが、その前提となる新しい貨幣感は従来の貨幣感よりも説得力があり、かつ、既存の日本の財務省の消費増税方針などに、あまり明確な論拠が感じられないため、いまの日本の閉塞感と合間って、相対的に良さげに見えるのではないか。

 

また、デフレになっているのも、経済システムが大量生産・大量消費の時代で、無駄なモノを作って経済をまわしていたが

既に先進国では、購買したいものを消費者がある程度買ってしまっており、消費のニーズがない。消費自体が縮小しているのがデフレの本質であり、金融政策・財政政策でなんとかしよう、と言う概念自体(消費牽引経済への復帰)は的外れに見える。

 

○感想・結論

MMTの論拠には正しいものもあるが、全体的に怪しいところがあり玉石混合。

とは言え、経済学は反対派も同じように玉石混合なので、どちらも説得力に乏しい。

そのため、素人からすると、どっちが正しいかわからない(正直どっちも怪しく見える)ため、自分の立場や都合によって、MMTという理論が政治家などにうまく利用されていないか。(基本的に経済リテラシーが低い国民にとっては、都合の良い理論のように見えるのもあり)

 

また、政府がコントロールして、経済をよくしていくなどのそもそもの前提が古い、間違っている感があるため、そもそも論がおかしい中で、議論しても何も正解が出てこないような印象。(MMTの正否を論じること自体が的外れ)

例えば、そもそも論として国の借金が膨らんでいるのは、日本の場合は膨大な社会保障費であり、予防医療の普及や歳出の削減に努めることがまず必要で「借金しても大丈夫だから」というのはそもそも論として違うのではないか。

 

(参考文献)

MMT現代貨幣理論入門 | L・ランダル・レイ, 中野 剛志, 松尾 匡, 島倉 原, 鈴木 正徳, 島倉 原 |本 | 通販 | Amazon