ブロックチェーンに関しては、日本では”Fintech”という言葉の中の特にビットコインとワンセットで用いられている。
ビットコインのイメージに関してはMtGoxの事件もあり、儲かりそうだがなんか怪しいという世間の印象であろうから、ブロックチェーンもその巻き込み事故に遭っているかもしれない。
まず始めにブロックチェーンは何か?を参考までにレベル分けして簡単に説明したい。
(よりブロックチェーンの仕組みに興味がある人は記末の参考書籍を参考にして欲しい)
理解レベル1(最低レベル)
ブロックチェーンとはビットコインの裏付けとなるセキュリティ暗号技術。
もっと噛み砕いて言えば、
「その仮想通貨は本物ですよって保証してくれる信用機関みたいなもの。」
理解レベル2(IT界隈レベル)
ブロックチェーンとはスクリプトカレンシー(ビットコインなどの仮想通貨の総称)のセキュリティ技術で、PtoP取引や分散台帳を可能とするもの。この“分散台帳”というのもFintechに含まれるため、ブロックチェーンと言えばフィンテックのイメージが日本ではある。ブロックチェーンにおいて、誰がセキュリティを担保してくれるかと言うと、マイナーという全世界にあるコンピューターのリソースを持つ人および機械。
※分散台帳に関しては他書籍参照。
理解レベル3(ITエンジニアレベル)
ブロックチェーンの方式は複数あり、スクリプトカレンシーも複数ある。マイナーは不特定多数の場合も、特定の誰かの場合もその合算も存在する。セキュリティ技術が高いため、実際はコイン以外にも電子送金、個人情報の保護や契約書などにも使うことができる。(分散台帳を含め色々な用途が期待されている)暗号技術自体はPKIという従来の技術を使用している。
理解レベル4(ブロックチェーンファウンダーレベル)
ブロックチェーンとビットコインを作ったサトシ・ナカモトの根本思想は”Decentralized”、すなわち、中央管理から分散管理システムへの移行を意図したもの。例えば、これまでは金融機関などが取引に介在することによって、その取引を保証してきた。しかし、こうした特定の誰かの保証が取引に存在すると、その特定の誰かに権力が集中し、社会構造がいびつになるためこの仕組みを改変するために作ったもの。その結果として“分散台帳”というようなものが具体的には出来上がる。
理解レベル5(システムアーキテクトレベル)
ブロックチェーンがクリアしている本質的な課題は“信用”である。
ご覧の用にブロックチェーンは単なるビットコインの相棒ではなく、実際は非常に深く、練られたアルゴリズムである。ちゃんと説明しようとすれば本が何冊も書けてしまうだろう。従って、今回は最後のレベル4、5のその根本思想と社会的なインパクトにだけ絞って説明したいと思う。
まず、ブロックチェーンの根本思想にあるのは、今の世の中を変えることにあるのは明白であるということだ。特にターゲットとしているのが人間の社会構造で歴史上克服出来なかった“権力の偏在”と“信用の保証”についてである。
どのような社会システムであっても、誰かに権力が集中し(社会主義でもファシズムでも、共産でも貴族制でも共和制でもそして民主主義でも)人間は機能化すると同一の機械的な意思決定構造を持つため、必ず権力は腐敗する。そのためまず、ブロックチェーンは分散型のモデルを用いて、中央集権、つまり権力を排した社会構造を作れないか、という問題提起をしている。
続いて重要なのは信用だ。私は以前ブログで、仮に進化したAIに資本主義の次にくるべきシステムはどうしたら実現できるだろうという問いを投げかけた場合、その解答は“互いを信頼することだ”と述べた。
これはあらゆる人間間の問題において相手を欺く動機が存在し、それを防ぐために我々は軍隊、法律、警察、信用保証などに多大な社会コストを払っているが、お互いが信頼できる社会においては、そうしたものが必要となくなるからだと説明した。
従って、ブロックチェーンによって信頼が保証されるのであれば、こうした信頼できないから払っている社会コストの大部分は排除することができる。(その意味においてブロックチェーンの思想自体はアナーキスト的なところがある。)
つまり、ブロックチェーンの登場の本質とは社会の変革の第一歩なのである。だが、それに気がついている者はほとんどいない。優れているのはまず思想であり、次にアルゴリズムがあり、最後にプロダクトがある。だが、巷ではプロダクトにばかり話題が及び、その本当に優れているのが「哲学」であるとの認識がされていない。
その一方で100%の信頼を担保できるか?という疑問が湧くが、それに対して既存のブロックチェーンシステムでは必ずしもイエスとは言えない。例えば量子コンピューターがあれば暗号システムは簡単に破られてしまう。その他にも、計算コスト、ハッキング対策、課題を挙げれば枚挙に暇がない。
(逆に言えば、今後ブロックチェーンが普及されば、よりネットワークや情報セキュリティに関連する仕事が増えるだろう。)
だが、それでブロックチェーンが無意味となるのかと言えばそうでもない。100%というものがそもそも既存の量子物理学理論的にあり得ないもので、それができないからといっても、既存のシステムよりも精度や信用が向上するなら採用する価値は充分にある。
そして、そもそもこれは社会構造変革のための一石であり、これを見て人々がどう反応するか、それこそが真に制作者が意図したところではないだろうか。
ブロックチェーンを使ってお金儲けをすることもできるし、社会を変えることもできる。(逆に使い方次第で今ある社会構造をより堅牢にすることもできる)自分はその設計思想とアルゴリズムだけを提供し、後は全世界の自発的な参加者に委ねる。これからの課題を克服するのは、制作者自身ではなく、全世界にいるその思想を受け継いだ挑戦者に委ねたのではないだろうか。
世界の変革は誰かの押しつけや、一人の英雄や救世主などでは決して達成できない。そう作った人間はおそらくわかっているのだろう。
<参考文献などまとめ>
●ビットコイン研究所ブログなど
(インターネットでキーワード検索して読める解説から抜粋。1~から)
●ブロックチェーンレボリューション ダイヤモンド社
(理解レベル1~5 まで網羅された良書、主にビジネスへと用途、社会システムへの応用例と課題などが書かれている。反面、コードの記載や細かいビットコインの技術的な記載はないためビジネス書籍)
●ブロックチェーン 仕組みと理論 リックテレコム
(前半はブロッチェーンの説明、後半はコード実装例などがあり、ビジネス書籍よりも理解が深いため、実際にブロックチェーンに携わる人向け。理解レベル2〜3向け)
●マスタリングブロックチェーン NTT出版
(同じくコードが掲載されているが、やや思想よりで数学的な解説が中心。レベル2〜4向け)
●サトシ・ナカモト論文
(オンラインで日本版PDF入手可能)
※4、5が詳しく書かれた書籍は自分が知る限り存在しない。従って本ブログで扱ってみたのだが、仮に参考書籍を挙げるとすると、貨幣論関係の本の方が良い気がする。
●マルクスの資本論、あるいはその入門書、●柄谷行人のトランスクリティーク、●マックス・ウェーバーの職業としての政治、といった貨幣論や社会構造論の書籍を推薦する。
それらを読んで見て、もう一度ビットコインとブロックチェーンの仕組みを読むと、このアルゴリズムに隠された思想が読み解け易くなるのではないだろうか。
その他の参考として主に思想面を受け継いだと思われるイーサリアムプロジェクトと
予測モデルというアプローチから意欲的な試みをしているAugurなどを最後に紹介しておく。