IT人の政治リテラシー向上を目指して

元政治家秘書、現IT起業家が主にIT起業家、エンジニア、デザイナーなどIT業界人の政治リテラシー向上を目指して、日々のニュースや政治トピックについて言及。たまに起業ネタや映画、アニメネタなども。ちょっぴり認識力が上がるブログ。

円高時代にすべきこと

イギリスのEU離脱を受け、日銀の追加量的緩和+マイナス金利政策を受けても円高は止まらない。

 

なぜ、アベノミクス景気対策のために円安誘導するのか、まずはこの基本的なことからおさらいしてみる。

 

これは公然と言われていることではないので、知らない人もいるかもしれないが、戦後から今に至るまで日本の経済政策は一貫として変わっていない「傾斜生産方式」である。

 

ではどの産業に絞っているのかと言えば、「自動車」と「精密機械(電子部品)」である。この両方を国があらゆる税制を含めたバックアップをして、輸出し、雇用を増やし、外貨を獲得する。これが戦後から一貫している日本のシステムである。

 

だから円高は困るわけだし、当然これらの産業が傾けば、関連企業が非常に多いため、景気も悪くなる。だから、逆に言えば別に輸出をしていない内需企業で働いていれば、株式や外貨投資をしていなければ、基本的に世間で騒がれている程の景気感を感じないことが多いはずだ。

 

つまり、一般的な有権者からしてみれば、何故自民党が大企業ばかり優遇して、など思うかもしれないが、要するに「傾斜生産方式」という経済システムを容易に変更できないでいるのが本質的な原因の1つであると考えた方が良い。

円安誘導で株価を上げる、というのは表層的な話しであって、実は本質はこっちなのである。

 

では、容易にシステムの変更ができない中でどうやって、景気を浮上させるか、という方法にイノベーションと観光業をとりあえず今回はあげてみよう。(他には例えば政府企業一丸のインフラ輸出や、税制の変更、財政政策動員などもあるが今回はそこには触れないこととする)

 

まず、イノベーションだが、傾斜生産方式とイノベーションは非常に相性が悪い。先ほど、日本は戦後ずっと「傾斜生産方式」というシステムを採用している、と簡単に述べたが、実はその意味は深いところにあり、実際は日本の教育システムもこれに含まれている。

 

もちろん、戦後の日本経済を牽引したのはイノベーションがあり、高い商品力があったから世界で売れたわけだが、その後の「労働者を大量生産する教育システム」で育った層が増え、その世代が権力を握る年齢に達すると、容易に物事が動かなくなる。

 

日本人の特徴の1つは常に周りと同じ行動、言動パターンを取る事が確実な特徴として上げられる。これは教育政策の悪さというよりもむしろ、名目上の単一民族国家だから生じるデメリットの1つである。

 

面白いと思うのは、バブルの時代、お金を使わない、あるいは遅くまで一生懸命仕事をしている人間など狂気の沙汰だと思われていただろう。だが、景気が悪くなると、途端、一生懸命遅くまで働いて倹約していることが美徳であり、無駄遣いをする、働く時間が短い人間はどのような形であれ叩かれることになる(ニートという言葉も不景気が産み出した言葉である。)という多くの日本人の現金なマインドというのは滑稽ですらある。宗教に対する無頓着と同じ、歴史や過去を省みないのだろうか。

 

少し脱線をしたが、日本人のマインドセットが一律労働者で固定されている現状で、与党含め本当の意味でイノベーションを支援するシステムは日本には整っていない。イノベーションは、今あるものを打ち壊すものなので、現状を肯定するだけの今の教育システムからすれば、そもそも相反する概念である。本気でイノベーションをやるなら、考え方や技術教育、つまり教育システムを変えないといけないが、誰もそれに言及しない。

 

とりあえずゆとり教育は失敗(私は失敗だとは必ずしも考えていない)だと言い、元に戻すとか全くわけのわからないことばかりやっている。

 

結果的にイノベーションという言葉ばかりが踊り、技術もロクにわからない役人と金が余っている金融機関がITなら将来性がありそうだと、対して必要もない大企業の劣化版か小ロット過ぎて出来ないサービスを提供する会社に、湯水のように投資をしてお祭り騒ぎをしているだけなのが、現状の日本のベンチャー界隈で起きていることである。それも今。

 

従って、実際に日本でイノベーションをしているベンチャー企業は実際は数社程度しかなくて、それらは皆軒並み、そうしたお祭り騒ぎからは一歩引いたところにある。だが、イノベーションにはインフラが必要なことを思うと、この現状は最早絶望でしかない。とりあえず、数社の奇跡にイノベーションは最早国としては賭けるしかないだろう。とても円高対策としては間に合わない。

 

従って、観光を盛り上げる方に話しを移す。円高というのは、外国人観光客(いわゆるインバウンド)にはマイナスなので、もちろん訪日客を増やさないといけないが、日本人が観光にお金をもっと使う様にする、つまり内需を高めることが円高では必要になる。しかもただでさえ、円高で海外に皆が出易い状況下で。

 

そのためには大きな変更と小さな変更が必要である。まず大きな変更は、日本にもドイツ・フランスのような長期休暇制度を国が採用し、企業に強制的に導入させることだ。(これは友人のアイデアであると断っておく。)

 

例えばフランスは非常に観光産業が発達している。それは何故か、と言うと、1ヶ月単位で人々が移動し、そこに滞在し、お金を落とすからだ。街全体が観光地であり、かつ長期滞在するための設備が整っている。日本の場合は、とにかく宿泊費が高く、かつ滞在日数が常に数日単位なので、長期的な滞在をするための観光が育たないのだ。

 

基本的に観光ほど、お金が消費されることはない。移動、宿泊、食糧、観光、あらゆるものお金が使われる。1つ1つの額は車やパソコンを買うよりは小さいが、車と違い、一般的に数年に一度買う、というようなものでもない。その気になれば、毎月、毎年、観光は行くものだ。

 

観光白書のデータによると、日本人の2015年の平均国内観光回数は1.4回、2.3泊、金額にすると日帰り・宿泊合わせておよそ年間20兆円である。(2015年度)

http://www.mlit.go.jp/common/001131317.pdf

 

単純に計算し過ぎるのは良くないが、これが回数が3、4倍、あるいは宿泊数が20泊となったときの経済効果は100兆円くらいになる可能性もあることがわかるだろう。そして消費税が8%のままだとすると、政府はおおよそ、8兆円の増収となり、概ね消費税率を4〜6%上げる分の増収効果がある。この方が無駄に税率を上げるよりも、よほど乗数効果もあり、景気対策にもなる。

 

労働者は余暇が増え、企業は収入が増え、政府は増収で誰もが得することになる。休暇が増えた分、会社の仕事が滞るという問題は、実際は起こらないと思っていて、逆に日本の非効率の、過剰に無駄な労働が整理される効果もあるのではないかと見ている。結局こうした政府の強制がないと、逆にいつまでも企業は無駄を減らそうとしない。

 

次に小さな変更、これは規制緩和である。まず、観光に関わる多くの許可制を見直し、airbnbなどの民間サービスを一定の枠組みで容認することだ。そして、ホテル業界は室料を人数割から世界標準の部屋割に変更すべきだ。結果的に複数で旅行した方が安くなれば、その地域全体に落ちる金額は上がり、回転率が上がれば結果的に増収になるだろう。(でなければ部屋割りを採用しているairbnbに押されるだけだが)

 

次に国内エアライン各社およびJRは価格の協定を止めるべきだ。現行は東京大阪間で新幹線でも飛行機でも変わらない値段であり、そして東京から大阪に行く金額で韓国や台湾に行けてしまう。円高が進む中、ますます国内旅行のニーズが下がるのに、こんな高い料金形態では、ビジネス出張客のみしか見込めなくなるだろう。

 

それは地域くるみで行う、あるいは例えば高齢者や家族連れといった特定の層への割引や、長期休暇シーズン中だけの特例でもいいだろう。例えば東京から大阪に往復5000円で行ける。あるいは福岡、北海道に往復1万円で行けるとしたら、その観光に関わる経済効果は非常に大きなものになるだろう。都市から地方に資金の移動も地方消費税などを通して行われることになり、交付金などよりもずっとフェアである。

 

とは言え、現状、日本の家計はますます可処分所得が減っており、それに取り組まなくては、そもそも旅行に行く資金もない。

 

それの本質的な原因は国としての輸出の鈍化も勿論あるが、新自由主義的な政策で貧富の差が拡大している、つまり政府の分配としてのファンクションがうまくいっていない、間違った所に資金が蓄積している事に原因の1つはあるだろう。日本の場合アメリカと異なり、極端な富裕層の財産を全て没収して分配すれば賄えるようなことではなく、おそらく法人に資金が集まり過ぎているのではないかと考えている。世界的な現象としても。

 

世界的な貧富の差の拡大、一般的には一部の金持ちによる搾取、のような話しがどうも目に付くが、もっと根深いところ、実際は法人という組織体が富を吸い上げ、それが強くなり過ぎて政府と組み、政府の分配機能を阻害し、個人や家計に分配されていない、というのがもっと真実に近いところだと私は考えている。

 

そこはまた別途、機会を設けて分析することにするが、参院選、都知事選とほとんど政策が議論されなかったため、有権者にはピンとこなかったかもしれないが、今回述べた様に、政策は政府与党だけがやるものではない。野党、官僚、民間企業、そして当然有権者が一体となって本来はやるものだ。

 

従って、政府与党だけ入れ替えたら、世の中変わりますなんて言っているのは、甚だ詐欺もいいところで、もしそういう有権者に耳障りのいいことばかり言うような候補者・政党があったとしたらそれは、極めて質の低い無責任な集団か、嘘つき集団だと見做して間違いがない。

 

個人の立場、企業の立場、政府の立場、それぞれの立場で物事を考えないと、日本のシステムも見えてこないし、どう投票すべきかも見えてこない。そして、最後は、政治家、官僚、権力者に責任をなすり付けるだけの子供のような無責任な人間になってしまう。

 

だから、投票に行かなくてもいい。でも有権者の政治への無関心と不勉強だけは真に民主主義を滅ぼすものだと確信するわけである。